妊娠糖尿病とは
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて見つかる軽度の糖代謝異常で、糖尿病と診断されるほどではないものの、血糖値が正常より高い状態です。妊娠に伴うホルモンの影響でインスリンの働きが弱まり、血糖値が上がりやすくなることが主な原因です。通常は妊娠24〜28週頃の検査(75g経口ブドウ糖負荷試験など)で発見されます。妊娠前からの糖尿病とは異なり、妊娠をきっかけに現れるのが特徴です。妊娠糖尿病があると、赤ちゃんが大きくなりすぎたり(巨大児)、出産時の合併症のリスクが高まることがあります。また、母子ともに将来的に2型糖尿病を発症する可能性があるため、適切な管理が大切です。
妊娠糖尿病のリスク因子
体重過多や肥満
妊娠前のBMIが25以上の方は、妊娠糖尿病を発症するリスクが高まることがわかっています。
家族歴
両親や兄弟姉妹などの近い家族に糖尿病の人がいる場合、妊娠糖尿病を発症する可能性が高くなるとされています。
高血圧
これまでに高血圧と診断されたことがある方は、妊娠中に妊娠糖尿病を発症するリスクが高くなる可能性があります。
年齢
妊娠時の年齢が30歳を超えている方は、妊娠糖尿病を発症するリスクが高まるとされています。
過去に妊娠糖尿病と診断されたことがある
過去の妊娠で妊娠糖尿病と診断されたことがある方は、次の妊娠でも再び妊娠糖尿病を発症するリスクが高いとされています。こうした既往歴に加えて、生活習慣や遺伝的な体質なども妊娠糖尿病の発症に影響を与えることが知られています。
妊娠糖尿病の診断基準
妊娠24~28週頃に行う75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)で、以下のいずれか1項目以上に該当する場合に「妊娠糖尿病」と診断されます。
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項目 |
基準値 |
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空腹時血糖値 |
≧ 92 mg/dL |
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75g経口ブドウ糖負荷試験(1時間値) |
≧ 180 mg/dL |
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75g経口ブドウ糖負荷試験(2時間値) |
≧ 153 mg/dL |
妊娠糖尿病の治療
妊娠糖尿病の治療では、まず食事の見直しと無理のない範囲での運動が基本となります。これらの方法だけでは血糖値の改善が難しい場合には、インスリン注射による治療が行われることもあります。なお、妊娠中は赤ちゃんへの影響を考慮し、経口の血糖を下げる薬(内服薬)は原則として使われません。
妊娠糖尿病の胎児への影響
胎児期の影響
巨大児(胎児の過大成長)
巨大児とは、出生時の体重が4,000g以上の赤ちゃんを指し、妊娠糖尿病ではこの巨大児のリスクが高まることが知られています。母体の血糖値が高い状態が続くと、胎盤を通じて過剰なブドウ糖が胎児に移行し、胎児の血糖値も上昇します。それに対して胎児は、血糖値を下げようと膵臓から多くのインスリンを分泌します。インスリンには脂肪や組織の成長を促す作用があるため、その影響で胎児が過度に成長し、巨大児になる可能性が高くなります。
先天異常のリスク
妊娠糖尿病が適切に管理されないまま妊娠期間が進行すると、胎児に先天異常が生じるリスクが上昇することがあります。とくに、先天性心疾患(心臓の構造異常)や神経管閉鎖障害(無脳症、二分脊椎など)との関連が報告されています。ただし、これらの先天異常は妊娠糖尿病をもつすべての妊婦に起こるわけではなく、あくまで一部にみられる可能性がある影響です。妊娠中に血糖値をしっかりとコントロールすることで、これらのリスクを大きく抑えることができると考えられています。
出生後の影響
新生児低血糖症
新生児低血糖症とは、出生直後の赤ちゃんの血糖値が通常より大きく下がる状態を指し、妊娠糖尿病のある母親から生まれた新生児に比較的多くみられる合併症のひとつです。妊娠中、母体の血糖値が高い状態が続くと、胎盤を通じて胎児にも多くのブドウ糖が送られ、胎児の膵臓は血糖を調整しようとインスリンを多量に分泌するようになります。しかし、出生と同時に母体からのブドウ糖供給が途絶える一方で、胎児体内のインスリンはすぐには減らないため、赤ちゃんの血糖値が急激に低下し、新生児低血糖症を引き起こすことがあります。
新生児呼吸障害
新生児呼吸障害とは、出生直後の赤ちゃんがスムーズに呼吸できず、呼吸が浅くなったり、苦しそうな様子を示したりする状態を指します。なかでも新生児呼吸窮迫症候群(NRDS)は、肺の成熟が不十分な早産児に多く見られる呼吸疾患ですが、妊娠糖尿病をもつ母親から生まれた赤ちゃんでも発症する可能性があるとされています。妊娠中に母体の血糖値が高い状態が続くと、胎児の肺の成熟が遅れることがあり、出生後に肺で酸素と二酸化炭素をうまく交換できず、呼吸が不安定になる場合があります。このため、妊娠糖尿病と診断された妊婦では、赤ちゃんの呼吸状態にも十分な観察が必要です。
妊娠糖尿病と2型糖尿病の関係
妊娠糖尿病は、妊娠中に一時的に血糖値が上昇する状態を指します。多くの場合、出産後には血糖値が正常範囲に戻り、症状も消失するため「一時的な異常」として捉えられることが多いです。しかし、妊娠糖尿病を経験した女性は、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが一般の女性よりも高いことが、複数の研究で報告されています。これは、妊娠中に高血糖を引き起こした背景に、もともとのインスリン抵抗性や膵臓のインスリン分泌機能の低下が関与している可能性があるためと考えられています。そのため、たとえ出産後に血糖値が正常に戻ったとしても、安心せずに定期的な血糖値のチェックや健康診断を継続することが大切です。また、栄養バランスの取れた食事や適度な運動、適正体重の維持といった生活習慣を見直すことにより、2型糖尿病の発症リスクを効果的に下げられるとされています。
